ショートショート
ウィークエンド・シェイキング
2009年02月05日 23:19
今日の夜に宿題を片付けたら電話をかけないと。
あの子の事だから、「あ、そうだっけ?」なんて言うに決まってる!
そうやってわたしと約束した前科、何犯? 結構な数になるはずだよ。
金曜日の放課後は天国と地獄。明日あさってに授業がないのは最高だけど、約束を忘れられてやる事が急になくなったりしたらそれはもう、嫌でいっぱいになっちゃうんだから。
掃き掃除が終わって、机を元の場所に戻そうとした時にそのな考え事をしてるのは今週最後の放課後のわたし。
普段は掃除当番って嫌いなんだけど、この班に決まってから悪くないなって気はするんだよね。
この班は全員女子。仕切ったり、サボったりする男子はいない。男子ぜんぶがそんな事するわけじゃないけど、そういう事するやつって大っ嫌い!
だけど、この班ならそんな事でイライラしなくてすむし、掃除をしながら話が弾むから大好きなんだ。――先生がいない時だけの話だけど。
教室の後ろにまとめた机を元の場所に戻すと今度は拭き掃除。机戻しを途中で抜けた子たちがバケツを持って来てくれてる。
「この時だけは男子がいたらいいと思うよねぇ」
わたしの隣の列を戻していた子が二つ持ってきた雑巾をわたしにパスしながら言う。
「そう? 前の班とか男子多かったけど最悪だったよ?」
「だからこの時だけって言ったの。まぁ、この方が気楽でいいけどさ。ところで――」
言葉を止めて雑巾をぽちゃんとバケツに落とす。この子は結構、ガサツなところが多いんだ。わたしは予想してたからポチャってはねた水をささっと避ける
「――明日はどうするの?」
明日。そうだ。土曜日だ。明日はしっかり予定が入ってる。
「ははぁん、さては。デートってやつですか?」
すごくわざとらしい言い方。なんていうか、今どきコントでもやらないよそんなの。
「そうだけど?」
白状すると、照れ屋だからうっかり顔を赤くしてしまわないようにすました態度で答えた。
「いいなぁ。あたしは好きな人すらいないからうらやましぃよ」
「まぁねぇ」
わたしも前はそう思ってたかな。まぁ、ボーイフレンドっていたはいたで結構、大変なもんなんだけど。
けど、結構ある苦労話ってなんだかんだでイヤミに聞こえるから言わない方がいいんだろうけどね。
最近の不満のトップ・ワン、ツーはずいぶんとわたしを悩ませてくれてるけど、友達になんか相談しようにもしづらくてね。
先生が教室にいない時の拭き掃除は結構、急ピッチ。さっさと終わらせて帰る準備に取り掛かろうっていう事。
それであとはバケツと雑巾を誰が片付けるかなんだけど、いつもどうりこれはジャンケン。もちろん、持って来た子達はフェアにするために免除でだけどね。
で、ジャンケンの結果はわたしとさっき話してた友達の負け。別に嫌いな子なんてこの班にいないけど、結構仲良い方だから一緒でよかった。
水がいっぱい入ったバケツって結構、重たいからふたりがかりじゃないと大変!
掃除で使った水は外にある排水溝に捨てなきゃならないからちょっと面倒くさい。わたしのクラスは三階にあるから結構、長い道のりだったりするんだよ?
水をさっさと捨ててすぐ近くの水道で汚くなった雑巾を洗い始めた。
「ねぇ、知ってる?」
雑巾を荒っぽく水道から流れる冷たい水で洗いながら「水捨て係」の相棒はわたしに小さな声でボソッと言う。
「隣のクラスの――って、うちのクラスの――と付き合ってるでしょ?」
「うん、知ってるよ。有名じゃない」
っていうか、あのふたりが付き合ってる事、知らないひととかいるのかなぁ。
「そうだよね。で、あのふたり、昨日、学校帰りにキスしたんだってさ」
「それどこの情報?」
「えっと、隣のクラスのほら、去年、あたしが一緒のクラスだった三人組いるじゃない。あの三人から聞いたの。たまたま、通りがかったときに見ちゃったらしいよ」
たしか、あのふたりって今年入って付き合い始めたんだよね。
そんなに早くキスとかしちゃうものなんだ……。
「ところで、あんたはどうなの?」
「わたし?」
ううっ。それを聞かれるとちょっとキツイ。
わたしはあの子と夏から付き合ってるけど、花火大会で結構、ロマンチックにわたしから告白して付き合い始めたけど、そんな気配すらないんだよ!
「てか、告白して、オッケーされてすぐとか?」
「ないないないない!」
わたしは言われた事をうっかり想像して凄く慌てて否定した。そんなに「ない」って繰り返したら変だよね? でも、とっさって怖い。
「ホント? そんだけあせってるとうそ臭いよ?」
「ホントだよ。だって……」
あの子はホントに子供なんだよ! ぜったい、キスの「キ」の字すら考えた事もないんじゃないかな。
だいたい、あの子にとってわたしと男の子の友達たちと何が違うのってくらい。
この間、映画観に行ったのだって、カンフー映画だよ? わたし、そんなの一緒に見たかったわけじゃないのに!
それにその前は約束忘れて、家に電話かけたらあの子のお母さんが出て、しかもあの子いなくて途方にくれたんだから。
なのに、キスなんて……。
「あー、なんか、あたし余計な事でも言っちゃった?」
「へっ?」
「いや、うん。大丈夫。でも、ちょっとね……」
わたしはその後になんて言っていいのかわからなくて深くため息をついちゃった。
誰かが、それもわたしたちより後に付き合い始めた子たちに先越されちゃったって結構、くやしいんだもん。
最近買ってもらった全身鏡で、なんども服装を確認してみる。
お父さんはともかく、お母さんはあの子がわたしのボーイフレンドなのは知ってるからいろいろと協力してもらったりしてね。
まだ早いって怒られたけど、お化粧してるって気づいてくれるかな?
それと、今日は何があってもわたしが考えたとおりのプランにするんだ。それも、昨日、忘れてないか確認の電話で言っておいたん
だもん。
まぁ、それに帰ってきた答えが「うん。いーよー」ってとぼけた返事だったのはちょっとムカツクけど。
本の真似をしてちょっとネイルをしてみたけど、これは絶対気が付かないね。
さて、そろそろ出かける頃。
今までお母さんの間で「公然の秘密」っていうか「言わないけど知ってる事」だった事をわざわざ「明日、デートだから」だなんて恥ずかしい事言わせたんだからダメだったらぜったい許さないつもり。
ここから何言ったって、会うまでなんの意味もないけど、どうして欲しいか見抜いてよね!
まぁ結局、わたしからって事になるんだろうけどね。
女の子からキスってどうなんだろ?