やってくる足音は見つけた春
2013年01月25日 0:13
普段ならば眠る前のわずかな時間は本を読んですごしている。
だけども今日はそんな気分になることができない。だから、父の西洋趣味の影響で選ばれたところどころに彫り物のされた寝台に腰掛けながら窓の外を見ていた。
モダンな丸窓から見える小さな丘。そこに誇らしく佇む桜の木。それを囲むようにお祭りのように腰掛けながら賑やかに咲く菜の花たち。花たちが満月の明かりに照らされて昼間に見る姿とはずいぶんと違っていてその光が綺麗で目が奪われてしまう。
この月の光は心地よくてでも不安で、わたしは窓越しに見えるその景色の美しさに今日の偶然のできごとを思い出していた。
書生さん に偶然あって、それまで挨拶を交わすだけだったあの人と言葉を交わした初めての言葉たち。ずっと大人な人だと思っていたけれど子供っぽいところもあるんだと初めての知った。ああして言葉を交わしていて、今こうして一人でその時間のことを思い出してみて、もっとあの時間が長ければいいのにって思う。
あれからそれほど時が経たずに雨が上がったから、あの雨宿りの時間はとても短かった。
雨が上がりあの軒先を出たあとも今もずっと止んで欲しかった雨にもっと続くことを望んでいた。だけど、通り雨だったからそれほど長く続いてはくれなかった。
だからせめてああして書生さんと時間がまた来たらいいのにそれを望むことにした。
あれからずっと眠れず寝台で布団もかぶらずに短いうたた寝をしていた以外はあの丘を見ていた。
そして両親と朝食をとった後に丘に出かけた。
昨日、明るくなり始めてからふと目に止まった花について書かれた本を見ていて知った花言葉から菜の花たちたちを見たくなったのだ。
時折ここの花を摘んで家でいけたりしている。
わたしは菜の花を積み始めた。一本一本その香りや姿に和みながら。そして、花言葉をなんども心で読みながら。
この花に贈られた言葉には昨日の偶然と未来に望むことを託すことにした。今日はこの菜の花たちを花瓶にいけて眠れなかったあの夜に夢見た事へとたどり着けるよう見守ってもらおう。
もうそろそろ両手で抱えられなくなる。もう家に戻ろう。抱きしめるように菜の花を抱えながらわたしは昨日の夢の中のような姿を見せた丘をあとにした。